まぼろしのサイラトロン


日本の調光器の歴史の上で、
ミッシングリンク、と言えるのがサイラトロンではないでしょうか。

水抵抗、金属抵抗、オートトランスと来て、
こつ然としてサイリスタ調光器が登場するのが、
我が国の調光器の歴史テキストの常であるようです。

1960年代の後半、
サイリスタ調光器が我が国で使われ出した頃、
遠山静雄先生から
マグネティック・アンプリファイア/磁気増幅器や
サイラトロンの話を聞き、その区別もつかないまま、
好奇心だけが記憶の片隅に残っていました。

時は巡り、1975年、
私はある人形劇団のアメリカ公演の照明チーフとして、
アメリカ人スタッフを率いて孤軍奮闘していました。

そして、ロサンゼルスのスコティシライト講堂で、
とうとうこのサイラトロンと巡りあったのでした。

この会場の設備管理をしているエド・ロジャーという男は、
片意地強情の見本みたいな老人で、スタッフはみな泣かされました。

最初の公演が終わった後、彼は、
何を思ったか突然「面白いものを見せてやる」と
私を地下の調光ユニット室へと連れて行きました。

薄暗い地下のユニット室で、
たくさんのサイラトロンが、青紫色に輝いていました。
まさに幻想的な眺めでした。

「こっちがサイラトロン、こちらはサイリスタ。
両方とも上の調光卓につながっている。
劇場は古いが設備は一流だ。」とエドは大いばりでした。

調光卓は2階のバルコニーに客席と並んで、
オープンエアーのブースに音響卓と共にあって
観客との一体感に優れ、米国西海岸では気に入った調光室のひとつでした。

その調光卓はボロボロで、使えないフェーダーも混じっていました。
それでも、操作性も良く、
その先に、SCRに混じってサイラトロンがつながっていると思えば、
感無量でした。

「磁気増幅器(Magnetic Amplifiers)/マグアンプ式調光器は
東芝の工場で試作されたが実際に採用されることはなかった。」と、
遠山先生から聞いた記憶がありますが、確かではありません。

また、サイラトロンのことも聞いた記憶がありますが、
当時は、マグアンプとサイラトロンを混同し、
サイラトロンという真空管を用いて磁気増幅器を作るのだと思っていました。

しかし、磁気増幅器は、
鉄心を有するリアクトルの交流インピーダンスが、
重畳された直流磁化力の値によって変化することを利用したものであり、
サイラトロンとは別なものです。

サイラトロンはその名前がサイリスタに似ているように、
サイリスタの直接の先祖です。

また、サイラトロンは真空管に似ていますが、
真空ではなく様々なガスが封入された放電管で、
正確には電子管というべきでしょう。

ところで、現実に動いているサイラトロン調光器を、
自分の目で実際に見て、しかもそれを使った日本人の照明家が、
他にいるだろうか? という思いが時々頭をかすめます。

ひょっとしたら、自分は、そのたったひとりの日本人かもしれない・・・・と。




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