“Radionette” <<無線操縦のマリオネット/marionette >>

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アメリカ公演ポスター

マリオネットとは?

 マリオネットとは、糸操り人形もしくは糸操り人形劇のことを言います。人形
の節ふしを糸で吊り、それを巧みに操って人形を生きるがごとく、あるいはそれ
以上に表現する芸術です。
 棒使いやギニョールが早い動きを得意とするのに比べ、糸で吊られて人形自身
の重力を利用して操られるマリオネットは、むしろゆったりとした、優雅な動き
が特徴です。

「劇団へちま座」創立記念公演


 操り用の糸は操作器につながっています。糸の数は様々で、操作器も劇団によ
り、また国により、様々の物が工夫、創作されています。糸の長さは人形の大き
さに等しいか、2倍程度までで、3倍を超すと極めて操作が困難であると言われ
ています。
 従って、舞台装置と人形の大きさとのバランスの関係で、操作器を見せないよ
うにすると、人形の表現力が著しく低下します。そのようなことから、出使いと
言って、操り人形師が観客から見えるように演出されることが、他の人形劇より
も多くなっています。
 また、出使いの人形師の方が、観客の目に触れる機会が多いため、自分自身の
身のこなしにも神経が行き届き、社会的認知度も高くなり、文楽や、結城人形の
例を挙げるまでもなく、芸術家として処遇される機会も多くなっています。

無線操縦というと

 無線操縦というと、この糸操りの糸がないことかと、いとあやしく思う方もい
るかもしれませんが、残念ながらここで言う無線とは電波のことで、ラジオコン
トロール、すなわちラジコン制御のことです。
 伝統芸術の糸操りと先端技術のラジコン制御とは、意外と相性が良く、私は、
ラジコン制御の糸操りのことを、Radio Controled Marionette >> Radionette
ラジオネットと呼んでいます。

「吊る」と「鶴」

 「吊る」と「糸」の話をしたついでに、「吊る」と「鶴」の話をしましょう。
 鶴は英語で、crane と言います。日本語でクレーンと言えば、工事現場で重量
物を吊り上げる重機のことですが、英語でもクレーンはcrane で同じです。
 こんな因縁でつながっている鶴を吊らない手はないだろうということで、鶴の
マリオネット劇「つるの恩返し」を何度も作りました。

人形劇「つるの恩返し」

 人形劇「つるの恩返し」は日本最大の人形劇団カッパ座が日本全国150カ所
を2年間かけて公演した作品で、私は美術、照明とラジオネットを担当しました。
よく知られたお話の最後の3分間につるが登場します。

 障子の隙間から奧を覗くと、
突然、障子につるの影が映し出され、
続いて障子が前に倒れ、つるの立ち姿が現れます。
やがて、つるは倒れた障子の上をゆっくりと舞台前に歩いていきます。
そして、人間の言葉で語りかけ、
ゆっくりと羽を広げ、一瞬身を沈めると、力強く羽ばたき舞い上がります。
舞台前から客席上部を旋回し、
舞台へ戻り、そのまま袖幕へと消えていきます。
 

 同作品はその後アメリカでも公演し話題を呼びました。また、後述のように、
「花と緑の万国博覧会」JR館のミュージカルショウで少し小型化し、1800
回公演しました。更に豊島園の「こども劇場」では、棒使い人形と共演、1年間
440回の公演をこなしました。この公演では客席上を一周して舞台へ戻る仕掛
けを成功させました。

丹頂鶴の身長

 丹頂鶴の身長は140センチ程ですが、他の人形との兼ね合いで、身長が2メ
ートル、165センチ、60センチと3種類3回作りました。最初と2回目は、
等身大のぬいぐるみ人形との競演で、最後は、棒使い人形との共演でした。
 マリオネットは、60センチ程度が作りやすく、一般のマリオネットもそのく
らいの大きさになっています。その2倍、3倍の大きさを超えると、様々な困難
(Technical Difficulty)が起きてきます。操り糸、サイズ、重量について、標準
の3倍を、私は「マリオネットの質量臨界」と呼んでいますが、この件は、機会
があれば稿を改めて述べてみたいとお思います。
 マリオネットに限らず、人形劇を見て、直後に楽屋を訪れた経験のある人の中
に、人形があまりに小さいので驚く人が多いと思います。いろいろな関係で、人
形劇の人形は、人間の3分の1程度の大きさになっています。従って、舞台装置
の大きさや、舞台そのものの大きさも3分の1程度に作られます。
 ところが、観客は演劇に引き込まれると、普通の劇場のサイズに換算して理解
し、記憶するらしく、いつの間にか人形が等身大であるかのごとく潜在的に思い
こんでしまうようです。その為、直後に人形を見ると、実際の寸法はイメージの
3分の1くらいしかありませんので、あれ?! と感じます。この現象を、私は
「人形劇の相対性原理」と呼んでいます。

 身長が2メートルとか、165センチの鶴のマリオネットを作ると、もはや、
人間がその操作器を手に持って繰演することは出来ません。操作器は、簀の子や
バトンから吊られた、別の走行装置に吊られて無線操縦で操作するアイディアへ
と導かれます。/

人形が大きくなると、

人形が大きくなると、慣性の法則により、動きもより鈍くなりますので、操り
糸も長くは出来ません。せいぜい人形と同じくらいが限界です。そうすると、舞
台の高さの上から3分の1くらいのところに、巨大な操作器と、更にその上に走
行装置が観客から見える形で存在することになります。

 いろいろ考えても、これを消し去る方法が見つからないので、あえて、見せる
ことにして上演に踏み切りました。するとどうでしょう、操作器が邪魔だ、と言
う声は殆ど出なかったのです。鶴の演技に引き込まれれば引き込まれるほど、も
はや観客は操作器の存在など、全く目に入らなくなります。人は見たいものしか
見ないし、見えない様に作られている
のか、人間の感性の不思議に触れた思いで
した。
 このような人間の感性の不思議については、演劇、とりわけ人形劇では他にも
いろいろあって、これも機会があれば改めて取り上げてみたいと思っています。

ラジコンの仕組み

 ラジコンの仕組みは、運動を電気信号を通して伝え、再生するものですから、
電気信号の段階でいろいろな加工をすることが可能です。従って、ラジコン装置
をコンピュータにつないで、自動制御することも出来ます。実際、前述のように
大阪で開かれた「花と緑の万国博覧会」のJR西日本館で、SL義経号と連動し
たミュージカルで、毎日10回6ヶ月間(約1800回)小鳥や等身大マリオネッ
トのつるがコンピュータ仕掛けのラジコン制御で演技しました。

 豊島園のこども劇場は劇団カッパ座の人形劇専用劇場として私が設計し、年間
440公演、10年間に渡って世界名作シリーズと銘打って10作品を制作し、
延べ4400回の人形劇を上演しました。その中で、マリオネット/ラジオネッ
トを採用したのは、前述の「つるの恩返し」「ぶんぶく茶釜」です。
 ぶんぶく茶釜では、客席天井に突然一本のロープが出現し、そのロープをラジ
オネットのぶんぶくが手拍子よろしく綱渡りをするという演出を成功させました。
 片手に扇子ひらひら、もう一方の手で唐傘をパッと開き、左右の足を交互に踏
み換えて綱渡りをし、客席の端まで行って、回れ右をして帰って来て下手前の壁
の中に消える、という仕掛けでした。
 つるもぶんぶくも、3台のラジコン送受信機と15個のサーボモータを3人の
人形師が操縦、繰演しました。いわゆる「3人使い」でした。

 システムを設計制作したのは、当時、「西山軍団」と呼ばれた精鋭7名です。
今は、その中枢メンバーが劇団カッパ座で「Kappa Crystals」として活躍してい
ます。ラジオネットをやってみたいという人は相談してみると良いでしょう。

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